ヒタヒタと忍び寄る優し気な悪意に用心せよ
「Nさんのこと、どう思われます?」
仕事でちょっとした会話をする程度の関係のBさんが声のトーンを少し落として私に問うてきた。
「どう?というのは?」私も問いかけで返した。
いじめとかパワハラとか嫌な経験はしないほうがいいに決まっているが、その経験から私は、トラブルトリガーをまき散らすタイプの人間の誘い言葉には、敏感に反応するようになっている。
トラブルメーカーは、自分から問題ある言動をするので分かりやすいが、
トラブルトリガー、つまり「きっかけ」の種をまき散らすタイプは、秘めた
悪意があるので、とても分かりにくい。
トラブルトリガーの人は、
〇人間同士の不和を作りだすきっかけを好んで持ち掛ける
〇その不和からトラブルトリガー自身の味方を作り、増やす
だが、行動はトラブルメーカーのように単純ではないので、気をつけなければいけない。
たとえば、Yという人物が、X氏にZ氏の悪口を、Z氏にX氏の悪口を言うのは単純な行動だし、発信元がYであるので、X氏とZ氏がお互いに悪感情をもっておらず、客観的な視点と距離が保てれば関係の悪化は少ない。
Yは節操なく誰にでも悪口をいいふらす奴というくらいの認識だ。
ところが、悪意あるトラブルトリガーは、X氏とZ氏が何かの拍子に気まずい関係になったり、お互いに疑心を持つようなことが起こるとヒタヒタと忍び寄ってきて、X氏の中にあるZ氏への負の感情を増幅させるように仕向けるのだ。それも攻撃的ではなく、X氏に同情をしつつ、Z氏に毒を吐かせるよう誘い水を向けてくる。
そう、前出のBさんのように。
トラブルトリガーの巧妙さは「どう?」という問いかけで誘い水を向けるところだ。
これに対して私は問いかけを返す形をとった。するとBさんは、
「だって、Nさんにけっこうキツイ言い方されてたじゃないですか」と、いかにも心配そうに言うのだ。
私は「あ~、そうでしたか?仕事のことなので、なんとも」と笑ってその話題を打ち切ったが、Bさんは不服そうだった。
トラブルトリガーは、悪意の消化不良とでもいうのか、意に沿わない、誘い水に乗ってこない相手にはストレスを感じるようだが、すぐには諦めない。
後日、Bさんは
「この前のことだけど、仕事だからって言葉には人間性がでるよ。別にきつく言われる場面じゃなかったよ?気分悪かったでしょう?」
と、同情のオブラートで包んだような問いかけを繰り出してきた。
ここで私が「そうなんですよね、仕事だからって、あんな言い方はちょっとカチンときちゃいますね」などと言おうものなら、Bさんの心の中は喜びのコサックダンスモードだろう。
トラブルトリガーは自分の意見や旗幟をなかなかはっきりさせない。
標的にした人間に「言わせて」その味方という立場をとる。
奴らが自分の悪意ある意見や明確な悪口を言うのは、自分の味方が十分な数になり、圧倒的に立場が強くなってからである。お見事に卑怯なのである。
気が弱く、自己主張をあまりしない、繊細な人、話をつい合わせてしまう、嫌われたくない、噂好き、口が軽いなど、誘い水についのってしまう、術中にはまりやすいタイプの人をトラブルトリガーたちは見抜いてくるのだ。
逆を言えば、苦手なタイプも存在するわけで、
「いや~、あんまり気にしない性格なんで。気になったらNさん本人に言いますよ」という私の返答は、Bさんを黙らせた。
私が直接Nさんに意見を言うと、Bさんが主導権を取れない不具合が生じるからだ。
自分の意見や視点をもっている人や、直接的な人、おかしいと思ったことを自ら解決しようとするような人、鈍感力ある人などは、トラブルトリガーからは好かれもしないかわりにカモにもならないことが多い。
自己防衛するためには、
【直接、問題に関わったわけでもないのに、自己の意見、意思を鮮明にせず、味方を装い婉曲的な表現をしてあなたの負の感情を引き出そうとする人間】
これに注意すること。
「○○部長ってどう思う?」と、問われたら、私のように
「どう?って?」と問い返すのだ。
質問の真意が分からないのに、感情をそのまま口に出してしまうと面倒なことになるかもしれないのだから。
「ともだち100人出来るかな~」とサークル気分のまま新しい職場で
求められるまま、その時々に相手に合わせたことばかり言っていたのでは、
トラブルトリガーのいいカモである。
仕事上の人間関係全部が上手くいくのがベストだけれど、そうはいかない場合もある。あるが、悪意のある人間に落とし穴に放り込まれるようなことがあってはいけない。
誘い水には乗らないこと、必要な時には速やかに鎧を纏うこと。
まだ慣れぬ職場でも、トラブルトリガーを遠ざけることで風通しのいい人間関係のベースを作ることができれば心強いのではないだろうか。