前後不覚に満足も楽しさもなし
動画サイトなどでも見かける一気飲み。お酒を一本そのまま一気するものや、なかには一升を飲む動画まである。
美味しさとか、楽しさとかとは関係ない、なんというか一発芸的なものではあるが、非常に危険な行為だし、アルコール度数の高いお酒を一気で飲めることにも何のメリットもなく、ヘタしたら死ぬというデメリットがついてまわるだけだ。
一気もしないし、させないという状況でも、飲む本人が適量を知らなかったり早いピッチで飲んだり、酔いというものを理解していないと、その後、大変なことにもなる。
飲んで、海辺で騒ぎ、川で騒ぎノリで泳いだりして溺死、転落死したケースや、大勢で飲んで、酔い、吐いて介抱されて、横になって寝ていたがしばらくして様子を見にいったら呼吸停止していたケース、泥酔して嘔吐したものをのどに詰まらせての窒息死など、お酒慣れしていない若者の死亡例はいくらもある。
日本人はもともとアルコールを分解する酵素の働きが欧米人よりも遺伝的に弱いのだけれど、飲んでいるうちに強くなると平然と言ってのける人がいるように、飲むことで、慣れはするが、それも程度問題である。肝臓の数値に問題がないと安心する人もいるようだが、飲み慣れてはいても大量飲酒は肝臓だけでなく、脳にも影響してくるということは理解しておいたほうがいい。
大量飲酒をする人は脳の萎縮が高い割合でおこるという。認知症の原因にもなるわけだ。それを考えても、お酒をガブガブと飲むのは、やはり心身に負担が大きく、気づいたときは・・・ということになる。
少量の飲酒はいいというけれど・・・個々の体質で適量は皆違うから一概にはこの程度なら大丈夫とはいえないけれど、腹七分目から六分目が体にもいいように、お酒も「もうちょっと」というところでお開きにするのが、次に飲む楽しみにもつながり、体への負担も少なくていい。
「いや、飲むときは満足するまで!!」そういう人がいた。田舎の法事のときだったかなんだったのか、よく覚えていないが、そう、強く言って飲もうとする人に遠縁のオバサマが
「あんたは満足なんてせんよ、酔うてわからんごつなるだけ。つまり、あんたの満足は、わからんごつなるっていうことよ。わからんごつなっとっとに、どうして満足っち分かるとね。酒の飲み方も知らんで、なんが満足か」
酔って前後不覚になっている、意識が酔いで朦朧して帰る足もおぼつかないほどになることを満足というのなら、それは飲んでの酒ではなく、もう酒に飲まれての酔い。酒に飲まれている身で満足という感覚が分かるのか。ヨレヨレになるほどに酔うような酒の飲み方しかしてこないで、酒の満足などというのはおかしいというのである。
酔ってこそ酒というのは分からなくもないが、ヨレヨレの酔いにならなければ満足しないということになると、満足はいつも味わえぬ靄がかかったような感覚であることは確か。いい酒だったなという感覚は、ヨレヨレで翌日二日酔いという状態では得られるものではないもの。
古今亭志ん朝がある落語のマクラで一気飲みのことを
「あまり粋な飲み方じゃない」
と語ったものですが、せっかく飲むなら、ほろ酔いの一献入魂、体にも心にもいいお酒を飲みたいですね。