ミートボールとビールで観る
映画の中に出てくるカフェやレストランやバーを「いいな」と思う 場合、そのお店の内装や出している料理が好みであることが多いけれど、この映画に出てくるレストランは人が好きである。 食やレストラン、まして料理人を題材にした映画ではないし、食べに行くには大いに不安のあるレストランが登場するが、私の好みのお店である。
人気のカリウスマキ監督で「ル・アーヴルの靴みがき」と同じく難民問題にスポットをあてている作品。この監督は社会的にシンドイ立場の人々、不器用な生き方の人々をユーモアいっぱいに温かく、ちょいとブラックなスパイスも加えながら描く。
難民である若者の主人公を酒飲みの妻と別れた中年男が再出発のために買い取った閑古鳥がなくレストランで雇うあたりからグッと面白くなってくる。
暇だからと流行りの寿司を出そうと本屋に向かう中年男だが、このとき買う本がねぇ、笑えます。
そして店名を変えて”インペリアル・スシ”というお店にしてしまう。お客さんはたくさんきたし、店内では竹田の子守歌を流して、一応は器もなんとなく揃えたけれど、とにかく寿司がひどい。ひどいけれど、楽しく、主人公とこのレストランの仲間とオーナーである中年男の恰好が、いかにもな感じでさらに楽しい。
全体的に明るい映画ではない。移民問題はその後ろに多くの悲惨な現実が存在する。東日本大震災の支援のために、COMPLEXを復活させた吉川晃司は「人情の上にくるものなんてなんかあんの?」と語ったが、このコロナ禍、それも第3波が警戒される中で、大騒動な大統領選や国民が知らないうちにすすめられる危なっかしい貿易協定やらをみていると、この映画に出てくる心優しい人々を眺めつつ、ミートボールをつまみにビールでも飲もうかなという気になる。
そう、泡の消えたビールを用意しておこう。