今週のお題「チョコレート」
10代はキラキラ輝いてるよ、うん。
バレンタインデーにそわそわした人も多いのだろうが、私の場合、
「細田くん、甘いもの好きかなぁ」と心配しながら手作りチョコレートのために材料を買っている友人の心配の種である細田くんから
「おい、新しくできたラーメン屋な、味玉無料だぞ」などと必殺仕事人の打ち合わせのように言われ、
「そりゃ行くしかないね」と男子にまじって豚骨でテカテカになっていたくらいだから、そわそわ感はあまりなかったような気がする。しかし、数十年経過した今でもテカテカしているのだから、豚骨はいいやつだ。
その時に同じように豚骨でテカテカしていた細田くん他数人の男子は、チョコレートより豚骨が好きなのであったが、私は友人のために聞きとりをしたことがあった。
彼らが過去もらったバレンタインの菓子でとても印象に残ったのは、
「やたら固いチョコ」「味のないチョコ」「飾りのいっぱいついたチョコ」「パサパサのチョコクッキー」「粉っぽいチョコクッキー」「飾りのついたチョコクッキー」
・・・・おい、おい、ほぼ失敗作品か・・・しかもチョコペンで乙女が書いたハートマークやメッセージを「飾り」って・・・・。
若さは色々な意味で残酷だし、昭和期の脳みその栄養素が豚骨ラーメンみたいな男子は、いろんな意味でわきまえてなかったが、中にはモテ男もいて
「チョコを断ると、パサパサのチョコクッキーになる」という法則をもっていた。
押しの強い乙女が唐突に会話に混ぜた「チョコレートをアンタは食べるのか?」という質問に「チョコはあまり好きじゃない」と答えると乙女は動揺を隠しつつ「じゃあ、クッキーは???」とたたみかけてくるのだと。それも断ると悪いからと「食べるよ」と答えると、なかなかの確率で飲み物なしには食べられないクッキーが来るというのだ。
「そういうクッキーにバイト代からお返しをするオレは、健気だ」と言っていた。気遣いの出来るモテ男は、10代から出張先で急に取引先を接待しなければいけなくなった係長みたいな表情をして語っていた。モテ男本人は、和菓子好きの茶道部の先輩に心をわしづかみされていたようで・・・恋とはままならぬもの。
そんなことより、細田くんだ。彼は味玉が好きだ。どのラーメン屋の味玉が好きかを語らせたら長い、そして、息が少しニンニク臭い。このニンニク細田に可憐な私の友人が心をときめかせるのか私にはまったく理解できなかったが、「オレは食べものは、なんだってありがたくいただくよ」と爽やかな顔とニンニク臭い息で答えたので、なんとなく安心した。
バレンタインの日、友人はチョコではなく、パサパサではないサクサクのチーズクッキーを上手に作ってきた。少しだけほんの少しだけニンニクが香る。 手紙には「少しだけどガーリックが入っているので、学校では食べないで」と書かれていたそうだ。
放課後、部室に移動する私は細田くんをそれまで彼を一度も見かけたことのない図書館のある校舎の裏で見かけた。細田くんは長身の体を小さく前かがみにしゃがんでいた。手には友人の贈ったクッキーの包みが見えた。
友人の作ったクッキーの味はどうだったのか。
私が友人から試食用にもらったものと同じ味のはずだが、細田くんにとっては
きっと禁断の果実の味がしたに違いないのだった。
ときに恋は、ニンニクの香りでも甘酸っぱく感じさせるのであった。