夏の思い出の味でさよならを
記憶が曖昧なのだが、私が子供の頃は駄菓子屋や個人の食料品店は、夏にならないとアイスクリームや氷菓を入れた冷蔵庫を出さなかったように思う。店内にはあるのだが、電源が入っておらず、チェーンと鍵をかけてあるお店もあったような・・・。
とはいえ、冷蔵庫は各家庭にあるのだから、冷凍庫で冷やせばアイスクリームや氷菓の類は食べられる。だが、私は寝るときに祖母お手製の腹巻きをさせられていたくらいお腹が弱く、また、我が家の古めかしい生活、食事の習慣から、菓子類のチェックが厳しかった。
なので、初夏になり、アイスキャンディーを作る道具、といってもアルミの10センチばかりの円柱の筒にプラスティックで作られた蓋と棒を兼ねているものがセットになったものと、製氷器が二つ、これが出てくるとウキウキした。
しかし、はしゃいだりはせず、また激しくねだることもせずに太陽がギラギラと照り付ける日を待っていた。それまでは、祖父母が用意するカリントウやお饅頭と温めのお茶で我慢する。
麦茶が沸かされ、冷蔵庫から冷えた麦茶ポットが食卓に乗るころに、
「さて、ジュースと例のやつ買うておいで」となる。
私はグレープジュースが好きだったので、ジュースはグレープ一本やりだった。
例のやつというのは「シャービック」という商品で
これを作って製氷器に入れ、ジュースでアイスキャンディーを作るのが初夏から夏へ向かうときの心躍る行事であった。
「冷やこいもん、甘いもんは少しがええんや、体を冷やすからな」が祖父の言いつけだったが、食べて減った分を毎週日曜日に作って足すときに、無いなりの知恵を絞って何かしら新しいものを作るということは許された。
試作品というよりも実験に近かったと思う。
煎餅にシャービックを乗せたもの、煎餅でシャービックを挟んだもの、刻みチョコ入りのシャービック、カリントウがさしてあるアイスキャンディー(見た目はもう八つ墓村である)。
祖父母の気まずい無言に耐えながらも、試作していくうち、いいものは出来た。
もっとも好評であったのは、ケーキ屋さんでロールケーキの切れ端だけ(クリームが少量ついている)を集めたものを100円で買い、それを皿の底に押し詰めて敷き、出来上がったシャービックを崩してシャーベット状にしたものを上から重ねる。これを2回繰り返して、再度冷凍庫で冷やし固めて【シャービックケーキ】をつくり上げたのだ!!
これは家族にも友人にも好評だった。
もちろん、私は食べ過ぎて、しばらくは温いお茶と饅頭の生活を送ったが、その後、
アイスケーキが流行った時に、思い出エフェクトはかかっていたとはいえ
「あのときのシャービックケーキのほうが美味い!」と思ったくらい美味しかったのである。
今や冷やこいもん、甘いもんはスイーツと呼ばれ、季節を問わずコンビニで24時間いつでもすぐ手に入るようになった。
初夏がきても、子供の頃のウキウキする行事感はなくなってしまった。
だが、今年は祖父の弔い上げの年。
シャービックとバームクーヘンの切れ端を買い【シャービックケーキ】を今年の夏は作ろう。線香を立て、刻み煙草とともにお供えしてあげよう。
ジャービックの食べ納めを祖父と共に。