とりあえず、じゃないビールたち
「さぁ、どんどん飲んで」そう言われて注がれたビールを私がもてあましていると
「飲まないと苦くなっちゃうから。ビールはさっさと飲まないと注いだ人に失礼になるんだよ」
ザ・昭和な考えがまだまだ幅をきかせていた頃には、堂々と部下に飲酒を強いる上司もたくさんいた。私がビールを嫌いというわけではなく、ねちねちとアタリメを嚙みながら大口をあけて笑い、喋り続ける上司が飛ばした唾が入ったビールを喜んで飲むきにはなれなかっただけの話しなのだが、この上司のような人は、一軒目のお店に入るなり席に座わってもいないのに近くにいる店員さんをつかまえて「とりあえずビール5,6本もってきて」などと言うのであった。
時は過ぎて、若者の飲酒率もぐっと下がっているが、飲まないなら飲まないなりの楽しみ方というものもあり、ノンアルコールカクテルのバーなども登場している。とにかく座るなりお茶がわりのビールをかけつけ三杯みたいな流れはもうなくなっていて、いい時代だ。
2018年の酒税法改正でビールの定義が変わり「副原料」として認められる原料が(ハーブや香辛料だけでなくお茶なども)増えたことで、ビールといっても個性的なものも含め幅広い商品を選ぶことができるようになった。
桜の開花もはじまり、好みのビールをゆっくり飲みながら観たのがこちら
イタリアのクラフトビールの醸造家たちが出ていて、彼らが語るだけなのだけれど、ビール好きな人やこだわりがある人には、わりと楽しめる作品だと思う。
兼業から始めて見事な醸造所に発展させ、国内外でも賞をとるほどのビールを製造した経営者は地元でとれる作物を使用して、様々な新商品を造っていて、その情熱にも創造力にも感心した。
ウイスキーやテキーラなどに使用した樽で熟成させたり、乳酸菌を加えたりと独特な製品を造る醸造所も。
ウイスキー樽で熟成させたビールといえば、シングルモルトウイスキーの山崎の原酒樽で熟成したこちらは開発に5年かかったという。
大手醸造会社のものでも飲む側には好みが出るのだから、作り手のこだわりが強くでるクラフトビールはなおのこと、好みが分かれる。その醸造家の情熱や製造過程へのポリシーなど様々なストーリーがまた一味加えるのだから面白い。
とりあえず、じゃないビールをゆっくり楽しもう。