疑問形で乗り越える見栄と無知の壁
「食い物屋での物の言いようで、人間性がわかることもあるんだぞ」
そう言ったのは、バブルもバブル崩壊もリーマンショックも乗り越えたある経営者の方でした。
私は働いたお店では厨房にいることが多かったですが、お店のつくりによっては、お客様の注文を受けたりメニューの説明や時にはお酒の説明もしました。
他愛なくかわされている会話でその人の気持ちがチラリと見え隠れすることってありますが、飲食店ではそれがお店のスタッフ相手にも出てしまうことがあるのです。
私がよく耳にしたのは、料理やお酒を注文するときに語尾を上げてしまうパターンです。相手に疑問を投げかけているような語尾の上がった言い方です。
もし、好意をもっていたり、親密な関係になりたいと思う人といつもは行かないような洒落たお店で食事するチャンスができたなら、この
「語尾を上げた注文」の仕方はしない方がいいと思います。
語尾を上げた、まるで疑問形のような注文のやり方をすると、自信がないのかメニューがよくわかってないのか、実はあまり食べたくない状態なのか・・・そういう印象を与えがちですし、ホールのスタッフに注文をしているのか、メニューの内容を聞きたいのか分からなくなることもあります。
「ボクはそうだなぁ、○○のトンナレッリ???かな・・・」
もちろん、語尾をあげて疑問形+沈黙の場合、
「トンナレッリでよろしいですか?」というような確認が入り、無事料理は出てくるでしょう。※トンナレッリはパスタの一種です。
ですが、なんというか心が落ち着かない雰囲気が出まくりです。
分からない料理や知らない名前は聞いてから注文するほうが、美味しく食べられます。下手に知ったかぶりをしても、浮足立っているのが周囲の人に感づかれているでしょうし、美味しい組み合わせなどを知る機会も逃すので、何もいいことがありません。
つまり、こういう注文の仕方をする人は「見栄をはる」「恥を嫌う」「情報が不確かな状態でも見栄を優先して判断をする」という人間の質が隠れていると冒頭の経営者の方は言うのです。
曖昧でもその場で恥をかかなければそれを良しとするというのは、確かにある種の見栄でしょうから、言い得て妙だなと感じました。でも、好きな人の前では見栄をはる、知ったかぶりをして、ええかっこしたいという気持ちも共感できなくもないですが、共有のほうが相手の気持ちにも残るものです。
知らないものを二人で初めて知ることのほうが、印象は強いので、よくわからない料理や飲み物を疑問形と間違うような語尾上げの注文をするくらいなら、気兼ねなくスタッフに聞いたほうが、いろんな意味でお得だといえます。
語尾を上げるのは注文だけではなく返答にも聞かれることがあります。 面白かったのはコンビニで聞いたこんな会話です。
「コロッケにはソースとかつきます???」お客さんが聞くと
店員さんがポーションのソースを持ってきて
「こちらのソースでよろしかったですか???」
お客さんの質問に語尾上げの、丁寧なようで実はそうでもない疑問形で返事をするという、おかしな会話になっていました。
ふんわりした、直に受け止めない接客会話というのでしょうか、なんとなくで決着がついてしまうという典型です。
もし、このお客さんが「大丈夫じゃなかったら、ほかに何かあるの?」と聞いたら店員さんはなんと答えるのでしょうか・・・このコンビニの会話を例にとれば結果の多くは次の二つです。
A大丈夫も何も、そのひとつしか選択肢がない→これはさっきのコンビニの会話でいうところのソースのことですね。
Bほかに選択肢があることを店員さんが知らない→これは、ソースだけでなくタルタルやケチャップという選択肢からお客さんが選べるということを店員さんが知らなかったというもの。
どちらにしろ、お客さん方から一歩踏み込んだ質問をしないと分からないことを抱えている接客の場合、お客さんの立場からすれば頼りなく感じるものなのです。
クレームをつけるお客さんの中には、この一歩踏み込んだ質問にスタッフがオロオロして、手際悪く対応したことが原因となりお客さんを怒らせるという例も多いのです。丁寧に平身低頭しても乗り切れない原因をお店側が作らないようにしなくてはいけませんね。