長嶋の三振とトマトとご飯
教室で青りんごをかじり、理科室でハイライトを一服する教師(長門裕之)が登場する。
いまどきこんな先生がいたら、まるで犯罪者なみに叩かれるところでしょうが、これは1963年の作品だし(原作は戦前)、1980年くらいまでは、職員室でも堂々と煙草を吸っている先生がいたので、まぁ、そんなもんかなと。
吉永小百合主演の日活青春映画
生徒の機嫌を直すために、ポケットから板チョコだしてきたり、大きなコッペパンを食べたりと長門裕之演じる武井先生は、なかなかの食いしん坊である(笑)。
生徒と自転車で二人乗りしたり、勝手に武井先生の出すハガキを読んだりと 芦川いづみ演じる清楚で誠実そうな村尾先生は、何気にやることが大胆だ。
そういう先生たちと、生徒たちのラブコメ的な映画でなのだが、吉永小百合演じる質屋の娘で女学生の貞子が村尾先生とそうめんだか冷麦だかを食べる小さな食堂のシーンは短いけれど、チラリと映るかき氷機や、やる気なさそうに回る扇風機など店内のはレトロ感ある夏の風景。
さて、村尾先生と食堂で食事したはずの貞子は、家に帰るとサザエさんのカツオなみにお腹が減ってしまい、台所に立つ母に食べるものをねだるけれど、
「バーモンでも飲んでなさい」
といなされてしまう。
作品に出てくるのは、バーモンというもので、ミヤリサン製薬(株)のリンゴ酢と蜂蜜のドリンクらしい。
美容にも効果ありということだったのか「これ飲んでキレイになろうかな」と貞子は言うが、やはり気持ちは晩御飯に一直線。おかずの内容をチェック。
トマトにナスの胡麻和え、そしてオムレツ。食器棚からポットにいたるまで、レトロ感たっぷりのお台所。
テレビでは、後楽園球場での野球。長嶋が見事な三振で苦笑い。投手は実況の人がカネダと言っているので、スワローズにいた頃の金田正一のことだろうか。
庭のガラス戸は開けられ、すだれが半ば上げられ、ここでもゆるく扇風機が回っている。真夏でも夕方になるとそれほど暑くもなかったヒートアイランドになる前の日本。
「庭の緑を通して吹く風は・・・・」というのは、私の好きな夏の落語 「青菜」のセリフ
テレビで野球を見ながら浴衣姿の貞子は、「また太っちゃう」とかいいながらモグモグ食べよくしゃべる。貞子の母親は、丹阿弥谷津子が演じているが、とっても上品!!年を重ねても上品なまま。現在98才。
食卓では、お味噌汁は鍋からお椀に入れられて(ちゃんと湯気が立っている)出されるが、貞子はトマトでご飯を食べながら、長嶋の三振を嘆き、武井先生と村尾先生の恋の行方の妄想劇を母親にマシンガントークしつつ、4番バッターの王がセンターフライになって2アウトになった後、5番バッターの坂崎がホームランを打って大はしゃぎ(笑)。
後半には、酔っぱらった山岡久乃と吉永小百合の演技が見れますが、美味しく笑える場面は、この貞子の野球観戦しつつ食べてのマシンガントークでしょうね。
ロケ地は長野だそうで、自然いっぱい、レトロ感いっぱいの夏の美味しい映画、楽しめましたよ~。