子供にも社会見学ができた
70年、80年代のデパートにはありとあらゆるメニューを置いてある大食堂があった。
天ぷらうどん、きつねうどん、かつ丼とラーメン、ビールにフライセット、ハヤシライス、お子様ランチとクリームソーダ
次々に運ばれてくるメニューが家族それぞれの前に置かれていった。
現在は色々な食の専門店が集まるフロア構成になっているデパートが多いので、どちらかというと大型スーパーなどのフードコートに少しは似ているが、大食堂はセルフではなかったし、子供にとっては特別感もあったように思う。
和洋中なんでもござれで、孫の食べているパフェに祖父ちゃんが食べてる餡かけうどんのカマボコが飛んだの飛ばないの、やれ隣と盛りがちがうのと家族でワイワイガヤガヤ。
食堂の中だけではない、外では入り口横にある大きなガラスケースの中のサンプルをみて何を食べるかと相談している家族が大勢いて、こちらもワイワイやっていた。
お昼を過ぎて出かけた場合は、大人達はコーヒーで一服して大人の話、私はホットケーキかパフェあたりを食べながら食堂にいる人々をしばし観察。
サザエさん一家のような家族もいたが、明らかに深刻な雰囲気の男女が、お互いの飲み物から目をあげずにボソボソと話していたり、フランキー堺みたいな男性がもう一人の男性に平謝りにペコペコしていたりする場面も見たせいかおやつの時間、昼下がりの大食堂は少し苦手であったのを覚えている。
人には色々な事情がある
と、子供であるからそこまでは思い至らないのだが、当時はそのような社会の仕組みや人間関係の影の側面が子供の目にもふれるようなことが多かった気がする。スマホがあるわけではないので、ある程度の折衝というものを事前に済ませることが出来るのは電話くらいで、内容が濃いと
「お電話ではなんですので、お会いしてから」となるのだろう。
電話ではラチがあかないことがあるのは確かだ。
現在、私が住んでいる市内にもデパートがあり、そこに大食堂があるが食堂ではなく、カジュアルレストランであるらしい。
とはいえ、ここもガラスケースの中にサンプルがあり、メニューが和洋中なんでもあって好ましい。価格はファミレスよりも高くなるが、これは仕方ない。
ただ、コロナ禍のまえから、ワイワイガヤガヤはしていない。
向かいあった恋人たちも、ときには子供たちもそして親も会話の合間にスマホをチラ見したり、スマホでゲームしたりでわりと静かになるから、ワイガヤくらいであろうか。
私が子供時代に見た影の部分とは違う、取り返しのきかない習慣のようなものを見せられた気分になった。
昼下がりの大食堂は、やはり苦手である。