美味しく飲める状態のときに飲む
幼い時に住んでいた家では、いつでも火鉢が活躍していた。
久々に帰宅した父と祖父が無言で火鉢を間に差し向かいで座る。
食事を腹6分目で済ませる間にビールを少々。
そして、火鉢を囲んでの小半の宴。
初夏の頃ならそら豆を火鉢に網を置いて焼きあがるのを待つ間に、その隣であぶったスルメで飲み始める。
お酒は、火鉢かけていた鉄瓶でお燗にされており、一合ずつ都度お燗にして、それぞれ小半の酒を楽しむ。
二人とも喋らない。不仲だったのか、どうだったのかわからないが、ただ、ほんとに美味しそうに飲んでいた。
「美味しいの?」という私の問いに祖父は、
「お酒は美味しく飲める時に飲むものだ」という返答であった。
火鉢の炭がぼんやりと赤い。
ときには、味噌田楽やシイタケを網で焼いた、海苔をあぶり、小鍋をかけて湯豆腐もあった。
月が出れば月をながめ、雨が降れば雨音を聞き、虫の音を愛でてじんわり、じんわり盃をあける。
小半のお酒が終わる頃、〆にかきもちを焼いて、父はモグモグ、祖父の入れ歯はカタカタ。
大人になってから池波正太郎さんのエッセイに、気持ちに鬱々としたようなところがある時はお酒を飲まないと書いてあるのを読んだときに、なんとなくだが、自分のお酒への向き合い方が決まったような気がした。
大切な人たちと、美味しく飲める時に、美味しい酒肴と一緒にじんわり楽しむ
コロナの自粛で自宅飲みでの酒量が増えている方が多いとか。
ついつい飲んでしまう、ダラダラ飲んでしまうが続くと、後々に美味しいお酒と縁遠くなる原因を自分で作ってしまうことにもなりかねません。
休肝日を作って、美味しいお酒ライフを!