喜びというベネフィットを分かちあう
「お前は見た目で得してるな」
若いときに職場の先輩に言われた。
よく言えば、福々しい体型と顔にクリームパンのごとき手だと言いたかったのだろう。この人が作っているなら美味しそうだという見た目はあるかもしれない。
ニコニコ笑って、出来立ての商品を品出ししながらお客様に勧めるとよく売れていったが、これには、ずいぶん昔、上京前の休みにバイトした市場で、お客様と接して売る楽しみ、喜びを知ったのはを教えてもらった経験が少なからず影響している。
とても忙しい時期、しかも小さなお店だったので、店主に直接いろいろと教えてもらえたのが良かった。
一、商品知識をある程度頭に入れておくこと
対面で物を売るならば、ある程度のお客様の疑問に答えられなければいけない。
お客様の疑問、質問の中には「不安」が隠れている場合もあるのだから、それを解消できたほうがお客様に気持ちよく買い物していただける。
ただし、わからないことを「曖昧な返答」や「ごまかす」返事はNGである。
それにお客様の質問には一歩踏み込んだものが時々ある。
産地
同じ類の他商品との違い
調理方法
調理時間
日持ち
保存法
産地や違いあたりは基礎として覚えるが、調理方の違いによる日持ちの長さの違いや、保存方法まではしっかりと言えない。
こういう場合は「私はその知識がありませんので、いま店主がまいります」と言って店主を呼ぶように教えられた。
二、丁寧に接することで価値はプラスされる
お客様から商品についての質問をされて答えられない場合、
従業員が「店主にきいてきます」という方法と
「店主自ら」が出てくる(応対する)の二つに分かれる。
効率的ではないように、もしくは面倒に感じるだろうが、情報の確かさ、さらに重ねてお客様から質問された場合にもすぐ答えられ、よりお客様の希望にあった商品の販売などにも繋がる機会でもあることを考えると、後者のほうがお客様によりよい情報と価値を提供できる。もちろんお客様のお店にもつ印象も違ってくる。
キャッチをしていないお店は、待ちの姿勢であるのだから、お客様との機会はどのようなことでも丁寧にという姿勢は大事だ。
ただしこれをするには、店主や店長に応対できるだけの知識や経験は必要である。
三、お客様の前で困らない
少なくとも商品知識がない従業員がお客様に
「ちょっと分からないんですよぉ」というだけで終わらせてしまわないように指導すべきである。
あるお店で、明るく元気に接客をしているフロアスタッフに、お隣の席の御夫婦が食材の質問をしたところ、そのスタッフが急に黙り込んで「困った顔」をしてしまった後に「今聞いてきます」と立ち去ったことがあった。
「いいのよ、ちょっと聞いただけだから」という婦人の慌てた声を背にそのスタッフは厨房に入っていった。
小さなことだが、これはしっかり接客教育が行き届いていないことのあらわれだ。
ぐだぐだとクレームをつけているわけでもないお客様に「困った顔」を見せてもお客様の疑問は解決しないし、逆に気を遣わせることにもなる。
根本にあるのは
「知らない」「答えられない」=悪いこと、ダメなこと
という考え方であり感情である。
しかし、一番ダメなのは、自分がなにを「知らないか」をわかっていないことなのだ。
このあたりを接客の指導者やお店の責任者が勘違いをしていると「困った顔」接客をうみだす。
知らないもしくは失念したなら「ただいま確認してまいります」といって対処していくことがお客様のベネフィットであり、
「どう思われるか」「しまった」「どうしよう」という負の感情が優先されることのないよう指導し、似たようなシーン別の対処法を教えておくべきである。
接客態度はお店の体制を表すこともある。
責任者の顔色をうかがいながら働くスタッフは、そこにエネルギーをとられてお客様のベネフィットに応えることに消極的になる。
お店のスタッフに共有させるべきことは、
本当の効率とは、安直な「感情レベル」の抽象的な判断(他者からの評価を気にする)(自己評価が下がること)から生まれる「怯え、悪感情」を排除し、適切な対処、応対をしてお客様のベネフィットをつくりだすこと
である。
商品はもちろん、接客が作り出すお店の雰囲気は、お客様のベネフィットを大きく左右するものです。
だからこそ無駄な精神的負荷をなるだけ排除することが、お店の価値を高めることに積極的になれる接客スタッフを育てるのです。
そのためには、お客様のベネフィットに積極的になることの喜びを経験し言葉で伝えられる人材が指導者としては望ましいわけですから、立場的にそうだからという理由で丸投げにしてはいけません。
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