お客さんがお客さんを呼ぶ愛されるお店
ウォーキングのコースにしている近くの駅は、駅を出て5歩のところにから揚げの専門店Aがある。そのお店から15歩歩いたところにも、から揚げ専門店Bがあり、そしてこのお店からさらに15歩ほど歩くと、鶏肉をメインに扱っているデリがある。このデリから20歩ほど歩くと、決まった曜日だけ焼き鳥のテイクアウトをするお店Cと、40歩ほどいくと立ち飲み屋が併設されている焼き鳥販売のお店Dがある。
駅から徒歩数十歩圏内に鶏肉を調理して出すお店がこれだけあり、しかも駅ビル内にはケンタまである。
我々は、過多の時代に生きている
角を曲がるごとに現れ出てくる唐揚げの専門店は、同じく角を曲がるごとに建っているコンビニやファストフード店の加工調理されたチキンの商品より、高く不味いものは売れないが、質、量、価格のバランスをとりすぎると、ありふれたものになるし、たとえ価格がずば抜けて安くても質に問題ありとなれば、激しく叩かれる可能性があって高リスクである。
消費者の「安く、もっと安く」という声に合わせると、利益を確保する方法が何かを削減するということしかできなくなる。経費の削減が難しければ、今以上に売るしかないと・・・だが、どうやって供給過多な状況でそれを売るのか・・・。
さて、この徒歩数十歩圏内の近すぎる競争で最も商品が魅力的で、人気があり行列までできるお店は、決まった曜日だけ開けるテイクアウトの焼き鳥店Cである。お肉は他の焼き鳥店やデリ、近くのスーパー焼き鳥の2倍はあり、ジューシーに焼き上げていて、国産を使用している。お値段は他店の1.7倍くらい。
他のお店のこじんまりした焼き鳥が80円だとすれば、このお店は140円である。包装は簡単で、自分でタッパーを用意すればそれに入れてくれるし、 1本が大きいから1本だけ買って立ち食いして小腹を満たす若者たちもいる。そしてよく並んでいる近隣に住むお年寄りたちが言うには、2本だけ、例えばネギマとレバーの2本だけということが出来るのがいいと・・・。
しかし、焼き鳥の販売は1本ずつなのだから、他のお店でも1本でも2本でも売ってくれるのが当然なはずだが、あるお年寄りはこう言った
「ほかだと、たった2本かと、そういう態度をほかのお店はするから・・・ こちらも申し訳なくて」
我々は、過多の時代に生きている
似たりよったりのお店が立ち並ぶ中で、数を売ればいいというだけの戦略はある意味弊害である。お客さんを大事にするということは、平身低頭して気をつかい、感情労働をマシマシにすることではない。それは基本的な親切心や思いやりである。
C店の原価は高いからお店は薄利だろうが、親切な対応と簡略化された(お客さんにも協力をお願いしての)システムがあり、1本、2本というお客さんにも気兼ねなく買ってもらえるような声掛けや心構えをしている。それは常日頃の態度に出ていて、お客さんもそれにちゃんと気づいている。そのようにして固定客となった人は、なかなか離れていかない。
周辺のお店が安売りをし、声をあげて投げ売りをする前に用意した本数を売り切ってC店が店じまいをするのは、そういうお客さんを自分たちの手でつかんだからだ。
C店は、焼き場が裏にありそこに1人ないし2人。売り場は両手を広げたくらいの窓枠。1人で販売と会計を切り盛りしているので、種類と本数をいって会計をするだけ。丁寧な言葉での接客というものはないのだが、お客さんをしっかり見ていて、行列にスタッフが慌てるでもなく、会計に手間取るわけでもなく実に気分よく買えて、しかも美味しい。
気分よく買えるというのは大事だ。とくに単身者や高齢の方が多いような地域では、小さな単位でも売ってくれたりすることの方が多少安いよりも嬉しい場合がある。たくさんの量を安くが素晴らしいというのは思い込みであるし、しかも、質の悪さを補うということにもならない。
お客さんがお客さんを呼ぶというのは、ちょんまげ時代から変わらないのだから、基本はお客さんを増やすことが大事。
落語で壺算というのがあるが、番頭が目先の水甕の利益を度外視して口のうまい客の値切りに応じるのもお客さんを増やそうとしてである。
商人がよく登場するのが上方落語
供給過多の状況、激しい競争、その中でお客さんに支持されるお店になるには、お客さんをしっかり見ないとダメなのに、数を売って利益をとることばかりに目を向けていると、知らぬ間にお客さんを失うことになる。
現在、どのお店も値上げラッシュでとても厳しい。1個でも多く売ることについつい注力してしまいがちだけれど、商品の質を維持しつつ気分よく買ってもらえる「売る側の姿勢」がすごく大事である。
それは細やかな気遣いだったり、思いやりだったり、お客さんに店主やスタッフが自信をもって売れるような商品を作るということであったりなのだ。
「そんな商品やレベルの高い従業員がいたら、もっと繁盛しているよ」といった店主がいたが・・・すばらしい商品や良い従業員に恵まれても足を引っ張るだけの店主もいる。金銭と交換するモノのように食材を扱っているようなお店は、スタッフもそのように扱うし、お客さんにもその態度が感じとられてしまうものだ。
「このお店(人)だから気分よく買える、同じものを買うなら少し高くてもあの店で買う」といわれるお店になるには、しっかり外からお店を観察すること。お店を観察することは、お客さんを観察することにもなり、気づかなかったお客さん視点と感情を持つことが出来る。
お客さんたちに喜んで買って帰って(リピートして)もらうためには、お店側はどういう姿勢や思考でいるべきなのか、観察から得た気づきを活かして楽しく実践するのが一番である。
商人といえば
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