菜も句食ろう判官なセンスのよさ
食べ物が出てくる落語の中で好きなものに「青菜」がある。
植木屋の職人とお屋敷の主人との会話、そこに出てくるお酒とおつまみは、柳影と鯉のあらい。
職人の演じ方で一番好きなのは柳家小三治だとは以前にも書いたかな。小三治が演じる植木職人は素直で、アクが強くないが、きっと相手をしてもらっている屋敷の主人のほうもとても気分がいいだろうと思える人物である。
「柳陰」は関東では「直し」や「本直し」と呼ばれていたもので江戸時代から昭和の初期頃には夏に冷酒用として飲まれていたもので、みりんと焼酎を大体1:1で混ぜたもの。日本のレトロなカクテルといえば、そうかもしれない。
鯉のあらいは10代のころにわりと食べたし、釣りにもはまっていたので(夕まづめで大物と戦ったわ~)基本的に私にとっては食用な感が強く、日本庭園で手をたたいて「見て、きれいな錦鯉!」というような素振りをしつつも、釣れない、食べられないとは分かっていながら心の中では
「食いつきが落ちてるな、夕方にならないとダメか」とか「しっかり身のついた鯉だわ~」とか、
鯉といえば錦鯉と鯉のぼりくらいしか知らないような子供には分かりっこない大人な葛藤を味わっているのである。
こりこりとした身のしまった鯉のあらいもいいが、濃厚な鯉こくも美味しい。ただ、鯉は新鮮さはもちろん、どのように管理されていたかや下処理など調理した人の技術も味に大きく関係してくるので 食べるときのお店選びには十分に気をつけたいところ。
柳陰にしろ鯉にしろ、栄養価の高いものであり特に鯉は薬効があるとされてもいる魚。私は、この「青菜」という落語に出てくる屋敷の主人は、偶然を装いながら人のいい植木職人さんに暑い中の仕事の感謝として(もちろん植木職人さんの好ましい人柄も関係しているだろうが)ご馳走をしたのだと勝手に解釈している。
しかし、ご馳走ならもっと品数多くしてやれと思う人いるかもしれないが、品数が多ければ、もし植木職人さんが急いで帰りたいときや用事が他にあるときに断るのに気が引けるし、
「せっかく用意したのに」という感が出てしまっては、無粋なご馳走になってしまうから、そのあたりこの主人のセンスがいいところだなと思っている。