お客様になくてはならないお店になる
先日、買い物ついでに鮮魚コーナーをチェックしていたら、隣の ご婦人が「あのう、このヒラマサおいしいのかしら?」と話しかけてきた。
鮮魚コーナーで働く人は、そろいのユニホームに長靴、サロンをつけているわけで、私は手に買い物カゴも持っており、店員さんと間違われたわけではないらしい。私はこういうことがよくあるので、聞かれたことには素直に答えるようにしています。
長崎からきた天然もののヒラマサ。九州の北の方には、ヒラマサのいい漁場があり、長崎の壱岐、対馬、五島は有名だ。旬は春、夏あたりだが、産卵前にしっかり食べているからこの時期でも美味しい。
「値段も手ごろだし、いいと思うよ」というと、ご婦人は、自分は魚が苦手だが、娘が好きなので手巻き寿司にしたい、出来ればあまり脂っこくないほうがいいとのことだったから、背身と腹身の違いと、手巻きもいいが、手ごね寿司もいいよなんて話しをして、ちょっとした作り方と具材の話しをしていたら、数人の人が寄ってきていて、皆さん聞き耳を立てていたらしく、ご婦人同様に、ヒラマサの刺身のパックをもってレジに並んでいた。
スーパーの鮮魚コーナーではなく鮮魚の専門店が入っている場所だったけれど、専門店だからイチオシは対面販売のものですという雰囲気。氷の上に並べた貝や尾頭付きの魚や未処理のイカ、鍋用のアンコウの切り身ばかり声高にウリを呼ばわっても、それなりの値段のするものを並べているのだし、調理法も煮るとか焼くとかしか伝えないなら興味を持っても「出来るのか?」という不安感からお客さまは手を出さないことのほうが多いのです。
刺身のパックにも、旬とか天然とかいうシールを貼っているが、ちょっとしたポップでカンタンな説明をつけてあげるほうが、グッと食べたいという気持ちになるのに、そこを押さえないまま、威勢のいい声で遠くの方で叫んでいる。
「うちはいいものを出しているんだから」という自負があるのはいいことだけれど、それと売れるかどうかお客様に親しまれるかはどうかは別の話しです。お客様は神様ですという、無理で害のある低姿勢をやれというのではなく、お客様に提供できるサービスというものは色々とあるのだから、それを惜しんではいけないということ。知らなければ自分で学び、従業員と共有してお客様に提供できるサービスに厚みを持たせることがとても大事です。
老舗の和菓子屋さんに野外生活者と思われるお客さんがきた。従業員がコソコソと対応をどうするか小声で話していると、饅頭ひとつを買いに来たそのお客さんを店の主が自ら丁寧に接客し、店の外まで出て頭を下げて見送ったという話があるが、これは
「わざわざ買いに来てくれているお客さま」
というのがいかに大事かを知っている店主の姿勢である。
「次も来たい」「同じものでも買うならあの店」「少し高くてもあの店で買いたい」と思ってもらうまでには、単なる売り買いだけでないものが必要になってくるものです。
そのためにも、しっかりした集客に結び付くお客様に寄り添った姿勢、お客様の喜びのための「売り」の一工夫を考えて実践していくことがこれからはとても大事になっていくでしょう。