食いしん坊の探偵さん、歯を痛めて友を得る
どんな有能な探偵にも勘違いはある。
数々の難事件を解決してきたこの名探偵でも、だ。
ポワロは秘書のミス・レモンにこう言い切っている
「エルキュール・ポワロは歯医者に行く必要はありません。私の歯は完璧です」
ポワロは大食漢ではないようだが、食いしん坊であることは確かのようで、 ジョニー・ウェイバリー誘拐事件のときには、イギリス式の朝食がふるまわれるのを楽しみにしていたけれど、期待がはずれてしまった。しかし、諦めきれず、出先で相棒のヘイスティングスと一緒にスクランブルエッグ、ソーセージ、ベーコン、キドニー、そしてビールを楽しんでいる。ベーコンはカリカリかどうかをしっかり確かめるのも忘れない。
なぜ、ポワロがイギリス式朝食を楽しみにしていたのか、事件の起こるであろう場所が使用人が数人いるお金持ちの大邸宅だったからですね。1800年代とかに資本家だった人達はどんどん儲けてドカーンと豪華な朝食を食べるようになったそうで、その朝食をポアロは心待ちにしていたというわけです。
玉子にベーコン、キドニー(牛や羊の腎臓の煮込みや炒め物)、ハムやチーズはもちろんタラ(魚)の煮込み、お粥、果物など品数が多く、これにパンと飲み物はビールが出る場合もあり、最後はスコーンあたりも食べながらお茶もするというね。ちょっとした大食いバトルができる品数。
さて、美味しいものは食べたいが、ポワロは歯の調子がその後イマイチだったのでしょう、歯の治療に行ったようで「24羽の黒つぐみ」の中では、歯科医のボニートン先生と一緒に行ったビショップレストランの食事でも少しワインが歯にしみた様子。お店の今日のオススメの栗を詰めたローストターキーに舌平目を頼むのだが、ボニートン先生のお気に入りのウェイトレスのモーリーが話すある老人のお客のことにポワロは興味深々に。
そんなポワロを見てボニートン先生はいう
「キミにとってミステリーのない人生は、マスタードなしのローストビーフのごとしだ」
この老人の食べるものが、この事件のひとつのポイントでもあるが、これは書かないでおきますね、ミステリーだし。
この「24羽の黒つぐみ」の中では、ポワロがヘイスティングスに料理を出すシーンがある。母直伝のウサギの煮込みリエージュ風だ。味のほうは、 「実にウサギらしい味がします」というのがヘイスティングスの感想だった。友情は大事である。
事件解決後、ポワロ、ヘイスティングス、ジャップ主任警部、ボニートン先生と男達だけで、ビショップレストランで食事をするシーンがあるが、私はこういうシーンが大好き。男達がちまちまとナイフとフォークを動かし、お喋りしつつの食事シーンというのは、ギャング映画などではよく見るのだが、この紳士たちのそれは、とても知的で楽しそうだ。モーリーにオススメを聞いて、 ポワロとボニートン先生と食事出来たら最高だろうなぁ。
灰色の脳細胞のためにも、美味しいものを!!!